2008/08/11

養老孟司『バカの壁』

養老孟司氏『バカの壁』読了。
解剖学者である養老先生が、思うままに喋った内容を本にしたというもの。2003年のベストセラーで、当時買ったんだけどいまいち没頭できず放置してあったのです。
久々に引っ張り出して最初から読んでみたらこれが結構面白い。話をまとめたという形式であるせいか、話題が飛びまくってますが一応一貫したテーマがあります。
そのテーマが『バカの壁』なんだけど、噛み砕いて言うと「雑学として知っている」ことと「理解している」ということは違うんですよ、ということでしょうか。現代社会は情報化社会でなんでも出来事が伝わるけど、実感として飲み込めないまま解った気になっている、と。
もっと自分でいろいろ理解しようとしていかなきゃダメですよって言いたいんだな、と僕は受け止めました。

なかでも面白いなと思ったエピソードは『個性』の話。均一を目指して教育しながら「個性を伸ばせ」って言うのは変なんじゃないの?という問題提起がありました。
そもそも人間、素の状態でスペックが違っている。隣の人とお前を見間違えるなんてことは無い。個性というのは元からあるもので、むしろ他人こそ理解できないものであるとのこと。だから「他人と協調しよう」という教育をしていくべきなんじゃないのか、という主張をしてました。

確かになんか最近いろんな企業の偽装事件なんかを見てると、もっと協調性というか、優しさというかおおらかな心みたいなものがどこかにあればこんな風にはならないんじゃないかなーと思う。
まずは会社が独善的に利益を追求した結果、不正をし始める。これ、社内で「まずいんじゃないの?」とかそういう話になってれば事件にはならないはずなんだけど、個人主義だから協力して改善しようってことにならない。
で、誰かが内部告発しちゃう。告発って多分悪いことじゃないんだろうけど、なんかそうする前に話し合いとかできないのかな?とか思ってしまう。
で、事件になって表に出たらマスコミが社会的背景も考えずに叩きまくる。どうしたら良くなるか、今後同じ問題を
起こさないためにはどうすればいいのかっていう議論はぜんぜん無くて、とにかく「こんな悪いことしてた」「こんなことを隠してた」っていう報道をしまくるわけです。
なんかどこをとってもギスギスしていて、いやな世の中だなぁという感じがするんだよね。

まあこんなこと言いながら、自分には協調性というものはあんまりありませんけど……。

経済の話も興味深かった。数字を動かしているだけの『虚の経済』が巨大になっていてそちらが世界を動かしているみたいになってるけど、やっぱり物をやりとりするための『実の経済』を大事にしなきゃいけないんじゃないかという話。
『虚の経済』とは『花見酒経済』というやつで、酒樽を囲んで熊さんが八つぁんにお金を渡して一杯飲み、今度は八つぁんが熊さんにお金を渡して一杯飲み、とやっていると見た目上お金は回ってるんだけど実際のリソースはどんどんなくなっていくだけでいつか破綻するというもの。
この本が出た頃はガソリン高騰なんて話は全く無かったと思うんだけど、現在の石油事情を考えるとうすら寒く感じるところであります。

この本、某ネットショップの書評がいまだに良評価と悪評価で更新され続けています。どう受け止めるかの差こそあれ、なかなか考えされられる良い本なんじゃないかなと思いました。